作曲を支援する。

今私が大学で研究していることについて軽く触れてみましょう。

私は「コンピュータで作曲を支援するソフトウェアの開発」をテーマに研究しています。

元々このテーマに絞られていたわけでは無く、私の興味のあるテーマをゼミのミーティングでいくつか出してみたところ、先生から「これをやってみたらおもしろそうだね」とのお言葉を頂き、やってみようと決意してみました。

私自身作曲をしているのでコンピュータにすべてをゆだねる手段としての自動作曲とは違うものにしたかったし、作曲家とコンピュータの立ち位置はそうあるべきだと考えています。(現代の音楽において自動作曲を一つの表現として用いる場合はのぞきます。)

そこで私は現在、コンピュータで作曲を支援する手段としてのソフトウェアを開発しています。今のところ、作曲のプロとまではいかないまでもある程度音楽を組み立てる作業を経験したことのある人なら使いこなせる程度まで出来ています。和声法を用いて、ユーザが支援して欲しいときのみ支援機能を働かせるというものです。

厳密には支援というより和声法のマルチメディア図鑑ということになるでしょうか。コンピュータの果たす役割は人間が能動的に作曲を行うという目的ならそれで充分だと思うのです。

理論体系としてまとめられている和声法は数学のように公理から厳密に理論が組み立ててありますが、広義には各々の作曲家の持つ書法をまとめて和声法と呼びます。

また実際の作曲では、必要最低限の理論を知った上で、その規則を使ってみたり破ってみたりということが行われています。つまりソフトウェアに実装した必要最低限の理論を用いてユーザを支援することにより、ユーザは理論を知らなくてもソフトウェアの支援に従ったり無視したりして作曲が出来るのです。

このように必要な時に最低限の音楽理論を辞書のように「参照」することが出来るソフトウェアは意外と存在していません。これは、作曲家にとっては理論を参照しなくても頭に入っていますし、理論を知らない人にとってはいくら参照出来るだけでは作曲という作業が成立しないからでしょう。

せっかく世の中にコンピュータが普及した現代、作曲をする人はコンピュータによる支援を受けるべきです。ただし、支援の方法にはきをつけなければなりません。コンピュータは人間に比べ複雑な計算を可能とし、膨大なデータをメモリに蓄えることが出来る一方で、「ひらめき」や「美的感覚」といった作曲に必要不可欠な要素を持っていません。人間とコンピュータの特徴をうまく生かすことができれば、技術が高く芸術的な作品を作れるはずです。

…と、ここまで偉そうに語っておきながらソフトウェアは完成に至っていません。研究室の中では最も研究が進んでいないかもしれません。それでも自分で設定したテーマだからこそ自信は持っていますし、論文を書き上げて今後につなげていきたいという思いでいっぱいです。何より、自由に研究させて頂いている今の研究環境に感謝です。

まだまだ作曲をしたことの無い人がチャレンジできるほどのレベルに達していませんが、いずれはそこまで実現したいと考えています。